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腹部大動脈瘤を知ろう

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腹部大動脈瘤とその症状

腹部大動脈瘤の治療

ステントグラフト治療

  • ステントグラフト治療を受ける条件は?
  • ステントグラフト留置にあたっての注意点
  • ステントグラフト内挿術の利点は?
  • 治療の流れ
  • 治療後の注意・合併症
  • 治療後のフォローアップ
  • 担当される先生への確認事項

ステントグラフト治療

ステントグラフト治療を受ける条件は?

ステントグラフト内挿術を検討するためには、以下の条件が満たされる必要があります。

  • 1~3時間の手術を受けることができる。
  • 術後、最低年1回の通院も含め、定期的に予定される診察や検査のために通院することができる。
  • 外科的手術と比べた際のステントグラフト内挿術の利益と不利益について十分な説明を受けている。

なお、非常に大きな動脈瘤もしくは、屈曲や石灰化の多い血管を持つ患者様は、ステントグラフト内挿術に適していないことがあります。

「ステントグラフト内挿術」が患者様に適しているかどうかの判断は、本Webサイトに掲載されている情報だけではできません。また、担当される先生の判断に代わるものでもありません。担当される先生とご相談ください。

禁忌とは何ですか?

禁忌とは、医薬品や医療機器を使用してはいけない患者様を指しています。例えば、手術を行えない患者様に対して手術を行うことや、薬物を投与することで病状が悪化したりする状況などが含まれます。
以下のような患者様にはステントグラフトは禁忌となっています。

  • デバイス材料(ニッケルチタン合金(ニチノール)、プラチナイリジウム合金、プラチナ、ポリエステル及びポリエチレン)に過敏性あるいはアレルギーのある患者。
  • グラフト感染の恐れのある患者。
  • 造影剤に対して過敏である又は使用が禁忌である患者。[治療及びフォローアップに必要な画像診断が実施できないため。]
  • ※1:ステントグラフトは次のような材料からできています:ニッケル-チタン(ニチノール)合金、プラチナ-イリジウム合金、プラチナ、ポリエチレンおよびポリエステル

ステントグラフト留置に際しての注意事項は?

  • 「ステントグラフトによる動脈瘤治療術」を受けた全ての患者様は、ステントグラフトと動脈瘤の状態を診断するため、必ず定期的に画像診断検査を受けてください(画像診断とは、X線、CT、MRI、あるいは他の技術を使用して体内を画像化し観察する検査を指しています)。
  • ステントグラフトを使用する際には、画像診断用の造影剤を投与する必要があります。腎臓に問題のある患者様は、ステントグラフト留置後に腎不全のリスクが高くなる可能性があります。
  • 長期間にわたって血管造影法を行うリスクについては、これまでのところまだ確立していません。
  • カテーテルを使用する処置は、カテーテルの大きさに関わらず血管の穿孔(穴があくこと)や解離(血管の層が剥がれること)が起きる危険性があります。大きいサイズのカテーテルを使用すると、この危険性が高くなります。

ステントグラフト内挿術の利点は?

ステントグラフト内挿術の利点には、以下のようなものがあります。

  • 低侵襲手技であるため、外科的手術に比べて回復が早く、入院期間が短い※2,3
  • 局所麻酔下で手術を行うことができる
  • 外科的手術に比べて死亡リスクが少ない※4,5
  • 術中の失血量が少ない※2,3
  • 術後の集中治療室滞在時間が少ない※2,3
  • ※2: Frank A. Lederle, et al. Outcomes Following Endovascular vs Open Repair of Abdominal Aortic Aneurysm. JAMA, October 14, 2009̶Vol 302, No. 14
  • ※3: Raja R. Gopaldas, et al. Superior nationwide outcomes of endovascular versus open repair for isolated descending thoracic aortic aneurysm in 11,669 patients. The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery c Volume 140, Number 5
  • ※4: Rajesh Patel, et al. Endovascular versus open repair of abdominal aortic aneurysm in 15-years' follow-up of the UK endovascular aneurysm repair trial 1 (EVAR trial 1): a randomized controlled trial. Lancet 2016; 388: 2366–74
  • ※5: Davy Cheng, et al. Endovascular Aortic Repair Versus Open Surgical Repair for Descending Thoracic Aortic Disease. JACC Vol. 55, No. 10, 2010

治療の流れ

手術前

術前に数種類の検査を行い、その結果によって医師が動脈瘤およびその周辺部位を確認します。これらの検査は、通常CT等の画像診断を用いて行います。

手術中

ステントグラフト内挿術は、局所麻酔あるいは全身麻酔下で行われます。

  • 1.鼠径部(脚のつけ根)を小さく切開し、ステントグラフトのデリバリーカテーテルが大腿動脈内(鼠径部から大腿の筋肉内にある大きな動脈)に挿入できるようにします。鼠径部の動脈が小さすぎてデリバリーカテーテルが挿入できない場合、医師は骨盤にある大きめの動脈から挿入したり、同動脈に外科用人工血管(導管)を取り付けて挿入することもあります。
  • 2.医師は、血管造影法を使って、鼠径部の血管内を進むカテーテルの動きを確認します。腹部大動脈瘤上で、グラフトの位置を正しく合わせる際にも、血管造影法を使用します。(図1)
  • 3.デリバリーカテーテルを適切な位置まで進めると、ステントグラフトはデリバリーカテーテルから大動脈内へとゆっくりと放出され、適切な大きさに自動的に拡張し(図2)、動脈瘤への血流を完全に遮断します(血流を切り離し、動脈瘤の中に血液が流れない状況を作ります)。
  • 4.動脈瘤の形や大きさは様々であり、確実にステントグラフトが動脈瘤の全長をカバーするため1つのステントグラフトで不十分な場合は追加のステントグラフトも使用し、血液が動脈瘤内に流れ込まないようにします。
  • 5.その後、医師は血管造影法を行って、ステントグラフトが適切な位置に留置されたかどうかを確認します。ステントグラフト内挿術は通常1~3時間かかります。

手術後

患者様は術後3~5日で退院できる場合が多く、ほとんどの場合には数週間以内に正常なQOL(生活の質)を取り戻すことができます。

治療後の注意・合併症

ステントグラフト内挿術の最初の数日間は、不快感が生じることが報告されています。術直後の4~6時間は、切開による鼠径部(脚のつけ根)の傷の治癒を早めるため、横になっているように指示されることがあります。
また、鼠径部の切開による傷に軽度の不快感を覚えることがありますが、この不快感は通常2日程度で解消されます。1~3日間は、鼠径部の切開部の腫れ、脚のしびれや痛み(またはズキズキとする感じ)、悪心、嘔吐、食欲不振、発熱、便秘等の副作用が生じることもあります。

ステントグラフト内挿術に関連する合併症には以下のようなものがあります。全ての合併症リスクについて担当される先生とよく話し合ってください。

エンドリーク

エンドリークとは動脈瘤内に血液が漏れることを指します。エンドリークはCT等の画像診断で発見することができます。何らかの治療が必要かどうかは担当医師が判断します。

ステントグラフトの移動(マイグレーション)

年数が経過すると、ステントグラフトが元の位置から移動してしまうことがあります。エンドリークと同様に画像診断で確認することができます。何らかの治療が必要かどうかは担当医師が判断します。

ステントグラフト自体の問題

例えば、ステントグラフトの縫合糸や金属部分の破損などが考えられます。これらの問題は同様に画像診断で確認することができます。何らかの治療が必要かどうかは担当医師が判断します。

動脈瘤の拡大または破裂

追加のステントグラフト内挿術もしくは手術が必要になることがあります。

腎臓の合併症

画像診断のために造影剤を使用するため、患者様の腎機能に問題がある場合は、腎不全になるリスクがあります。

血管の穿孔および裂傷

カテーテルを挿入した血管に穿孔(穴が開くこと)や裂傷等の合併症が起きる場合があります。カテーテルの径が大きいほどリスクが高まります。

動静脈瘻

血管損傷により、動静脈瘻が形成される可能性があります。動静脈瘻とは、血液が本来の動脈から毛細血管へと流れず、直接動脈から静脈へと流れることを指します。

腸管系の合併症

動脈や静脈に血栓(血液の固まり)ができることにより、腸管の虚血や壊死による外科的な手術が必要になることがあります。

下肢の合併症

血流障害等により、脚に痙攣痛や跛行が起こることがあります。(特にふくらはぎ等の下肢)また、動脈や静脈に血栓(血液の固まり)ができることにより、下肢への血流を妨げることがあります。

その他

錯感覚、脳卒中、一過性脳虚血発作、対麻痺、不全対麻痺、麻痺を含む下肢または全身の神経合併症

  • 鼠径部の感染や痛み
  • 吐き気や嘔吐
  • 発熱および炎症
  • 血管もしくはデバイスの閉塞(詰まること)
  • 肝臓の合併症
  • 肺の合併症
  • 麻酔の合併症および関連事象
  • 心臓の合併症および関連事象
  • リンパ系の合併症および関連事象
  • 血管系合併症
  • アレルギー反応(造影剤、抗血小板剤、ステントグラフト原材料)
  • 漿液腫
  • 放射線の過剰照射/不適切な照射
  • 感染および組織の壊死を含む泌尿器系の問題
  • インポテンツ
  • ショック
  • 組織損傷
  • 精神状態の変化
  • 浮腫
  • 死亡

治療後のフォローアップ

通院計画

経過観察は、ステントグラフトによる治療が成功したかどうかを判断するのに重要です。担当される先生は1ヶ月後、半年後、1年後、それ以降は毎年1回、経過観察のための通院の予定を組みます。
各通院予定日には、ステントグラフトの状態を診断するために、画像診断検査を行います。腎機能が良くない場合、造影剤の使用については必ず担当医師に確認してください。
画像診断によって合併症が発見される場合もあります。担当医師が合併症の治療の必要があると判断した場合、追加のステントグラフト内挿術により治療を行うことが多いですが、それができない場合は外科的手術によって治療を行う場合もあります。

特定医療機器登録用紙について

ステントグラフト内挿術後、患者様の名前や連絡先などをあらかじめ登録しておき、必要なお知らせをする際に、担当医師を通じて登録された連絡先などに情報提供を行います。そのため、担当医師は特定医療機器登録用紙に必要事項を記入します。写しの1部はご本人用、もう1部は担当医師用、そして3枚目の写しはステントグラフトの販売元の会社にて保管されます。この登録用紙には、大動脈に留置したステントグラフトのモデル番号、シリアル番号と本数等が記載されています。

担当される先生への確認事項

次のようなことを担当される先生にたずねてみましょう

  • 動脈瘤に対する治療法として、どのようなものがあるのか全て教えて欲しい
  • ステントグラフト内挿術は、私にとって適切な治療法か?
  • ステントグラフト内挿術による、大動脈瘤破裂のリスクはどのようなものか?
  • ステントグラフト内挿術を受けて、何らかの症状がでることがあるのか?
  • 術後、どのくらい通院する必要があるのか?
  • 経過観察では、どのような検査を受ける必要があるのか?
  • ステントグラフトによる治療後も、動脈瘤が大きくなり続けることはあるのか?
  • ステントグラフトによる治療後、活動を制限する必要があるか?ある場合、どのくらいの期間か?
  • ステントグラフトによる治療と比べて、開胸術・開腹術による外科的手術の利益と不利益は何か?