外科的治療:非手術の予後
外科治療が行われなかったAAA患者さんの予後が不良と報告されています。
AAA患者さんの予後改善には、専門医によるマネジメントが重要です。
- 対象:
- 1981年~1990年にかけて、千葉大学病院において外科手術が行われたAAA患者38例
- 方法:
- 外科手術が行われなかったAAA患者の追跡調査を行い、全生存率とともに、行われなかった理由例の転帰も調査した。
● 瘤径が小さい | 生存 | 14 |
---|---|---|
破裂による死亡 | 0 | |
他の原因による死亡 | 5 | |
● 手術のリスクが大きい | 生存 | 2 |
破裂による死亡 | 5 | |
他の原因による死亡 | 6 | |
● 手術を拒否 | 生存 | 1 |
破裂による死亡 | 3 | |
他の原因による死亡 | 2 | |
合計 | 38 |
Masuda Y, et al. Unoperated thoracic aortic aneurysms: survival rates of the patients and determinants of prognosis. Intern Med. 1992;31(9):1088-93.
解説
AAAが進行して瘤径が大きくなった場合、外科手術の適応となりますが、何らかの理由により外科手術が行われなかった場合の予後は不良と報告されています。
「瘤径が小さい」、「手術リスクが高い」、「患者さんが手術を拒否」という理由で外科治療が行われなかったAAA患者さんの5年生存率はわずか22%でした(図4)。また、「手術リスクが高い」、「患者さんが手術を拒否」により手術が行われなかった患者さんの半数は瘤の破裂により死亡しています。
さらに、多変量解析では、「瘤径」と「専門医による管理が行われなかったこと」が瘤破裂死に有意に関連していることが示されました。そのため、AAAが発見された場合、専門医による管理が重要となります。
※専門医による管理:CTまたはエコーを用いた循環器専門医による定期的なフォローと適切な薬物療法
外科的治療:血管内治療の成績
腹部大動脈瘤の外科的治療には、開腹手術(OSR)とステントグラフト内挿術(EVAR)に分けられます。
開腹手術の適応とならないAAA患者さんにおいて、ステントグラフト内挿術(EVAR)によって瘤関連死が有意に低下します。
- 対象:
- 1999年~2004年にかけて英国の33病院における60歳以上で開腹手術の適応とならいAAA(瘤径≧5.5cm)患者404例)
- 方法:
- EVAR群と非介入群に無作為に割り付け、EVAR施行(EVAR群)あるいは非実施(非介入群)後、追跡調査を行った。
Greenhalgh RM, et al. Endovascular repair of aortic aneurysm in patients physically ineligible for open repair. N Engl J Med. 2010;362(20):1872-80.
解説
開腹手術が適応とならないAAA患者さんに対して、これまで様々な薬剤による内科的治療が試みられていますが、現在のところ有効な治療法は確立していません。
一方、外科的治療では、開腹による人工血管置換術(OSR)とステントグラフト内挿術(EVAR)の有効性が確認されています。開腹手術は、手技が進歩したとはいえ、侵襲的であることに変わりはなく、特に高齢者には、術中・術後に大きな負担となります。そのような中、日本では2006年に導入されたEVARが、侵襲性の低い治療法として重要性を増しつつあります。
OSRとEVARの治療成績を比較した無作為臨床試験は複数行われており、代表的トライアルであるEVAR1, DREAM, OVER, ACEを集計したメタ解析によると、術後6カ月以内の死亡率はEVARが低いのに対し、徐々にEVARの優位性が失われ、術後5年時点でOSRと同等になるとされています。1)
この理由としては、EVAR術後の瘤破裂は再治療率の高さが挙げられますが、このメタ解析に含まれた患者群は1999年から2008年にステントグラフト治療を受けた患者でした。そのため、旧世代デバイスと比較して良好な早・中期成績を示している最新世代のデバイスにおいてはより良好なEVARの長期成績が期待できるとされています。2)
- 1)Powell JT, Sweeting MJ, Ulug P, Blankensteijn JD, Lederle FA, Becquemin JP, Greenhalgh RM. Meta-analysis of individual-patient data from EVAR-1, DREAM, OVER and ACE trials comparing outcomes of endovascular or open repair for abdominal aortic aneurysm over 5 years. The British journal of surgery. 2017;104(3):166-78.
- 2)Bockler D, Power AH, Bouwman LH, van Sterkenburg S, Bosiers M, Peeters P, Teijink JA, Verhagen HJ, investigators E. Improvements in patient outcomes with next generation endovascular aortic repair devices in the engage global registry and the EVAR-1 clinical trial. J Cardiovasc Surg (Torino). 2019.